〜無限の可能性〜

 MSXの「」は「無限の可能性」を表す、ということは「MSXについて」の項で述べているが、結局はハードウェアの制約によってその可能性を発揮できずにいた。飛び立とうとしても上手く飛べず、もがいていたという感じだろうか。
 規格提唱時にはあらゆる可能性を秘めていたと思われるが、ハードメーカーが撤退してしまってはMSX本体を供給することができず、「MSXの維持」が最優先課題となり、もはや可能性云々どころの話ではなくなってしまう。
 1991年発売の「FS-A1GT」を最後に、MSXは次第に市場から姿を消してゆく。市販ソフトは、大体1993〜1994年頃には新作発表が途絶える。最後のMSX雑誌である「MSX・FAN」は1995年8月号で休刊(廃刊)となる。
 Mファンの付録ディスクには毎号素晴らしいBGMが付いているのだが、最終号のBGMはとても清々しく、また堂々とした曲だった。表紙CGは、数人の若い男女が思い思いの表情で遠い彼方(未来)を見つめている、というもの。そんな爽やかな、そして新たな決意さえ感じられるMファン最終号に、正直言って泣けた。これがもっとしんみりとした雰囲気であったなら、また印象も変わっていたことだろう。


「MSX・FAN」最終号
Mファンは休刊の1年も前に「休刊宣言」をしてくれた
「ラスト○」と、数字が減っていくのを見ることは寂しくて辛いことだったが、
そのお陰で、ある程度の心の準備ができた上で、最終号を迎えることができた

 Mファンが終わり、新たな投稿作品を楽しめなくなった後は、全国のソフトベンダー(ソフト自動販売機)「TAKERU」が頼みの綱だったが、これも1997年に廃止となってしまい、アマチュア作品ですら、入手不可となる。

 まさに断崖絶壁、後は飛び降りるしかなさそうな状況下においても、MSXサークルは活動していた。彼らは、「MSXの無限の可能性」を意識的か無意識的かは分からないが、それを信じて活動していたのかも知れない。もちろん、「ただ楽しもうとしていただけ」とも考えられるが、それならそれで、メーカーがすっかり撤退した後も自力で楽しんでいけるぐらいの土壌が出来上がっていたことになる。それを証明するかのように、ユーザー主導のMSX関連のイベントが何度も開かれている。私は行ったことはないが、なかなかに盛況らしい。
 Mファン最終号の何号か前から、ページの余白に読者からの投書が載るようになったが、その中に「ユーザーがいる限り、MSXは不滅です」というものがあった。それを読んだ時は「実際どうなるか分かったもんじゃない」とも思ったのだが、MSXはゲーム機と違い、創作活動を行えるマシンである。ならば、確かにユーザーさえいれば存続することが可能だ。
 「もしかしたら、生き残れるかも知れない・・・?」

 そんなMファン休刊当時の淡い期待は現実のものとなった。絶壁の上に立たされたかと思いきや、あの手この手を尽くして生き残っているではないか。ここまでユーザーパワーに溢れるMSXは、やはり素晴らしいものだと思う。

 ユーザーの力は、ただイベントを開催するだけに止まらなかった。MSXのみならず、世には多種多様なエミュレータが存在する。MSXエミュレータも何種類か存在するが、従来のものでは権利関係が曖昧だったらしい。また、動作も不安定だったりする。更に、初心者には導入が難しい。
 そんな中、予てよりのユーザーの熱い声に応え、ついに2002年末、MSX Associationから公式エミュレータ「MSX PLAYer」が公開される。入手法は公式サイトの方をご覧頂くとして、まず、大体の機能は再現されている。全く不満がないわけではないが、ひとまず「良い感じ」といったところ。これなら初心者でも導入しやすい。動作も安定している。
 もちろん、今後もユーザーの声を採り入れることでバージョンアップが重ねられ、再現度が高まり、より使いやすいものへと発展していくはずだ。
 なお、MSXAのサイトには載っていないが、MSXサークル「SYNTAX」で「ディスクマガジンNV」を購読すると「MSX PLAYer SyntaxVer.」を入手できる。ちょっと凝った、カッコイイスキンが特徴だ。お楽しみ満載のディスクマガジンなので、興味のある人はぜひ。

 そんなこんなで、ユーザーの力は公式エミュレータをも誕生させた。この公式エミュレータ誕生により、MSXは「ハードウェアの制約を超えた」のである。ソフトウェアとして甦ることで、従来よりも身軽になった。つまり、より多くの人の手に渡りやすくなった。ソフトウェアも、「MSX PLAYer」が普及すればより入手しやすくなるだろう。ソフトウェアを一括して扱うサイトも現れるかも知れない。

 どうやら、MSXはまだまだこれかららしい。
 もがいて、もがいた末にようやく呪縛から解き放たれ、空を翔ることができるようになった。
 そんな「MSX」の「」には、まさに「無限の可能性」が秘められている・・・。